みると通信:成年後見制度とアドボカシー【第2回】

事例

 今回はケースアドボカシーの具体的な実践事例について取り上げてみたいと思います。本ケースでは、うまく自分の気持ちを整理して周囲に伝えことができない被保佐人の代弁者を、保佐人が果たしたケースです。

 Aさんは、統合失調症で精神科病院に医療保護入院中である。亡くなった母親の遺産分割協議のため、兄の申立てにより北九州成年後見センターが保佐人として選任された。担当の法律職が遺産分割協議書を作成して相続人である兄と北九州成年後見センターで合意し、相続手続きは終了した。担当の福祉職Bが面会を重ねると「帰る家もないし、兄にも迷惑かけた。このまま病院で生活をするつもり。だけど、共同生活は周りに気を遣うので、退院したい気持ちもある。」という意向を持っていた。

一方で兄は「同居していた母親が亡くなった後は、公営住宅で単身生活をしていたが、昼夜逆転と怠薬があり入院した。(兄が)金銭管理をしていたが、夜中にも電話がかかってきて迷惑していた。病状が再燃した時には、飛んでくる虫を追い払うといって窓から物を投げ、近隣にかなり迷惑をかけたので、公営住宅も解約した。このまま、入院していたほうが安心。」と退院することに消極的だった。主治医の意見は、「加療により、陽性症状はなくなっており、病状的には退院可能。」というものだった。

Bは、地域で精神障害者を対象としたグループホームが新設される事を知り、パンフレットをもってAさんに説明した。その後、Bのすすめに応じて、Aさんはグループホームを見学したところ、独立したワンルーム型の居室で、気にいった様子であった。後日、BがAさんと面談した所、「部屋にトイレもお風呂もついており、周りに気を使わずにすむ」とは言うものの入居意思をはっきりと示すことはなかった。

そこで今後のことに向けてAさん、兄、主治医、病棟の看護師、グループホーム相談員、相談支援専門員、Bとでカンファレンスが開かれた。金銭管理は保佐人が行うこと、グループホームで服薬管理・指導をすること、地域では相談支援専門員が担当し相談に応じることが確認された。意見を求められたAさんは「いまのままでいいです。」と言うだけであった。そこでBは「共同生活は周りに気を遣うので、退院したい気持ちをもっていること。グループホームに見学にいった際には、気に入った様子だったこと。」を、Aさんを代弁して説明した。参加者は、本人の意思が確定的ではないものの、サポートが受けられれば、退院可能と判断した。保佐人は代理権に基づき、相談支援事業所やグループホームと入所契約をした。

退院後、Aさんはグループホームで「本人らしい生活」を始めている。少しでも働いてお金を得たいという希望も述べ、日中は就労継続支援B型事業所に通いはじめて、ビル清掃等の仕事などをこなしている。