みると通信:財産管理に関する法律豆知識あれこれ

成年後見人の主な業務は、被後見人(判断能力が衰えてきたご本人)の財産管理です。 被後見人の利益になるように財産管理しなければならないことは皆さんご存知だと思います。

     では、

  • ・成年後見人と被後見人の間で契約はできるのか?
  • ・被後見人が亡くなった後、相続人が誰なのか?
  • ・どこにいるのかよく分からない場合どうすればいいのか?

このような疑問について考えてみたことはありますか?成年後見人の財産管理に関連しているけど、成年後見人は財産管理ができなかったり、成年後見人の立場では財産管理できないようなそんな場面で登場する人の役割について、少し勉強してみましょう。まずは、被後見人と成年後見人の利害が対立する場面です。

1 特別代理人

成年後見人と被後見人(本人)との利害が衝突するような場合、成年後見人が被後見人の代理人となるのは適切ではありません。

例えば、母親が死亡して、被後見人である父親と成年後見人である息子がいずれも相続人である場合、息子が父親を代理して相続放棄できるでしょうか?息子は自分の取り分を多くしたくて、父親に相続放棄させようとするかもしれません。それでは、父親の利益のための財産管理とはとてもいえないことは言うまでもありません。

このように成年後見人と被後見人の利益が相反する行為については、成年後見人が家庭裁判所に「特別代理人」を選任するよう請求しなければなりません(民法第860条で第826条準用)。請求された家庭裁判所は、弁護士などの第三者を特別代理人に選任して、選任された特別代理人は対象とされた行為についてのみ、被後見人の代理人となります。特別代理人を選任しなければならないのに、選任の申立をせずに成年後見人が被後見人を代理してしまった行為については、成年後見人は代理権がなかったことになります。つまり、法律的には「無権代理」として、被後見人には効力が及びません。
 成年後見人と被後見人の利益が相反する場合であっても、後見監督人がいれば、後見監督人が、被後見人を代表するので、「特別代理人」を選任しなくてもよいことになっています。
 また、後見人が被後見人の財産や第三者に対する権利(例えば後見人が第三者にお金を貸している場合のお金を返してもらう権利)を譲り受けた場合は、特別代理人や後見監督人が被後見人を代理していたとしても、被後見人が取り消すことができます。

次は、被後見人が亡くなった後の問題です。

被後見人が亡くなった後、成年後見人は被後見人の財産を管理する権限はありませんので、被後見人の財産を相続人に引き継がなければなりません。相続人がいることは分かっているけれど所在が分からない場合や、相続人がそもそもいるのかどうかも分からない場合はどうすればいいのでしょうか。ずっと成年後見人が保管しておくこともできないし、原則、被後見人の財産を処分することもできません。例えば、被後見人が預貯金と不動産を残して亡くなった場合、不動産に対して固定資産税が発生するけれど、元成年後見人は預貯金を払い戻して固定資産税を払うことはできません。誰も被後見人の残した財産を管理・処分できない状態になってしまうので、困ってしまいます。

2 不在者財産管理人

まず、相続人一人だけ存在することは分かっているけれど所在が分からない場合です。
被後見人が亡くなったら、相続が開始し、相続財産は相続人の財産となります。戸籍を調べると相続人がいることは分かっているのだけれど、どこにいるか分からず連絡がとれない場合は、その相続人が「不在」ということになりますので、不在者のための管理人である「不在者財産管理人」を選任します。
 選任する方法は、利害関係人又は検察官から家庭裁判所への申し立てによります。成年後見人は、不在者の財産を管理する者として利害関係人に含まれます。ただし、申立費用は申立人が負担しますので、不在者財産管理人が選任されたら、事務管理費用として不在者財産管理人に返還を求めてみてください。不在者財産管理人が選任されたら、被後見人の財産を引き継ぐことができます。

3 相続財産管理人

被後見人が亡くなった後、相続人のあることが明らかでない場合は、「相続財産管理人」を選任します。引き継がれるべき相続人がいるかどうかも分からない状態なので、宙に浮いた相続財産について相続財産法人を形成し、その管理人を決める制度です。
「相続人のあることが明らかでない」とは、

  • (1)戸籍を調べてみたけれど、相続人が存在しない場合
  • (2)戸籍上、最終順位の相続人は存在するけれど、家庭裁判所で相続放棄の手続きをしたため、初めから相続人とならなかったものとみなされる場合
  • (3)戸籍上、最終順位の相続人は存在するけれど、相続資格を喪失している場合
  • (4)戸籍上、最終順位の相続人は存在するけれど、同時死亡の推定が働く場合
  • などが考えられます。

(3)の相続資格を喪失する場合とは、故意に被相続人を死亡させた場合など相続人になることができない「相続欠格」にあたる場合や、推定相続人が被相続人を虐待するなどの事情があって、被相続人が家庭裁判所でその人を相続人から廃除する手続きをとったり、遺言で相続人から廃除したいという意思表示をすることで「推定相続人の廃除」をした場合が考えられます。
 成年後見人も、被相続人(被後見人)の財産を管理する者として利害関係人に含まれます。成年後見人が申立人となる相続財産管理人選任申立事件の数は増えているようです。
 相続財産管理人は、相続人を捜索する必要があり、最終的には特別縁故者がいるかどうかの検討や、残った相続財産を国庫に帰属させるなど、その事務は不在者財産管理人と異なってきます。

このように、成年後見人にはできない財産管理については特別代理人制度がありますし、被後見人の相続人がみつからない場合には不在者財産管理人と相続財産管理人の制度が活用されています。後見事務を行う上では、知っておかなければならない知識ですので、成年後見人の方は是非、参考にしてください。