みると通信:高次脳機能障害について知ろう【第2回】

第2回 高次脳機能障害のリハビリテーションと
福祉制度等について

前回は、高次脳機能障害の症状と特徴を記載しました。この障害を抱える人の生活のしづらさを少しイメージしてもらえたと思います。また、社会生活を共に過ごす周囲の人の理解が浸透しにくい現状も理解いただけたと思います。第2回目は、リハビリテーションや福祉制度等について触れていきたいと思います。

リハビリテーションについて

厚生労働省は、平成13年から5年間にわたり「高次脳機能障害支援モデル事業」を実施してきました。このモデル事業から「高次脳機能障害者支援の手引き」が作成され、その手引きの中で診断基準や訓練プログラム、社会復帰プログラムが解説されています。以下、この手引きを参考に記載してみます。
高次脳機能障害の専門的な訓練プログラムとしては「医学的リハビリテーション」「生活訓練プログラム」「職能訓練プログラム」が体系的に実施される必要があります。

(1)医学的リハビリテーション(医療機関)
急性期医療において脳損傷を可能な限り抑える治療後、身体的な機能回復を目指したリハビリテーションとともに注意障害、記憶障害、遂行機能障害、コミュニケーション障害、病識欠落、社会的行動障害などに対するリハビリテーションが行われます。

(2)生活訓練(医療機関、施設)
医学的リハビリテーションの流れで日常生活能力や社会活動能力を高め、日々の生活安定と、より積極的な社会参加が図れることを目指します。具体的には、生活リズムの確立、生活管理能力の向上、社会生活能力の向上、対人技能の向上、障害の自己認識・現実検討、家族支援を行っていきます。このステージの場としては、医療機関よりも社会福祉施設(障害者自立支援法における介護給付や訓練等給付によるもの)での実施が多い様です。

(3)職能訓練(医療機関、施設)
職能訓練は、一般的には準備訓練・技能訓練のことを示しますが、広くは就労支援まで含む場合もあります。このステージでは、医学的リハビリテーション・生活訓練において、本人自身が高次脳機能障害に注目できるようになっておくことが求められ、このことを前提に作業遂行面や適応面の準備訓練、新たな技能を身につける技能訓練などが行われます。障害者自立支援法による就労支援や障害者雇用施策との兼ね合いも多くあります。

これらの訓練は、医療サービスと福祉サービスが充足し合いながら提供されている現状です。ただし、これらの訓練プログラムは、すべての医療機関や施設で実施されている訳ではありません。具体的なリハビリや支援内容については、後ほど記載する「相談機関」へご相談ください。

福祉制度等について

以前は、高次脳機能障害に関して日常生活、社会生活で支障が生じていても、身体機能に障害がない場合は、社会的な支援がなされにくい状況にありました。しかし、上記モデル事業や現在の事業推進の経過で、各福祉サービスが提供される様になっています。基本的には、当コラム(「統合失調症について知ろう」~統合失調症を患った方が利用できる保健・医療・福祉サービスって何があるの?~)で記載した各サービスが利用いただけます。

1.相談機関

日常生活や社会生活での不安や医療、福祉に関する相談などを受け付けてくれます。

(1)高次脳機能障害支援拠点機関
県内は4つの機関があります。支援コーディネーターが配置され、本人や家族からの相談を受けます。

  • ・「福岡県身体障害者リハビリテーションセンター」 古賀市千鳥3-1-1(092-944-2011)
  • ・「福岡市立心身障がい福祉センター」 福岡市中央区長浜1-2-8(092-721-1611)
  • ・「産業医科大学」 北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1 (093-603-1611)
  • ・「久留米大学」 久留米市旭町67番地 (0942-35-3311)

(2)「各区役所 高齢者・障害者相談係」(北九州市)

(3)「北九州市立障害福祉センター」 小倉北区馬借1-7-1(093-522-8724)

(4)「北九州市障害者地域生活支援センター」 戸畑区汐井町1-6(093-861-3045)

(5)専門医療機関
専門医療機関については、「ふくおか医療情報ネット」を参考にしてください。

   http://www.fmc.fukuoka.med.or.jp/qq/qq40gnmenult.asp

2.各福祉サービス

(1)障害者手帳
高次脳機能障害は、「器質性精神疾患」として精神保健福祉手帳の申請ができます。申請には、診断書が必要です。診断書記載は精神科医に限らず、精神・神経障害の診断、治療できる医師であれば作成可能となっています。ただし、作成してくださる医者が少ない実情はある様です。また、身体障害(身体麻痺や失語症など)がある場合は身体障害者手帳での申請も可能です。

(2)障害者自立支援法による福祉サービス
診断を受けられた方や手帳をお持ちの方は、「障害程度区分認定」等を受けた上で障害者自立支援法上での各福祉サービス(ホームヘルプサービスや就労支援など)を受けることができます。
※高次脳機能障害社会資源名簿(福岡県身体障害者リハビリテーションセンター・ホームページより)

  http://fukuoka-rehacenter.or.jp/apc/document/ukeirekikan20100401.pdf

(3)介護保険による福祉サービス
40歳から64歳までの脳血管障害による高次脳機能障害の場合(医療保険加入者)で、「特定疾病」に認められた場合、介護保険サービスが提供されます。この場合、上記の障害者自立支援法による給付よりも優先されることになります。ただし、必要なサービスが介護保険上にない場合は、障害者自立支援法によるサービス受給が可能です。

3.所得保障と医療費保障

(1)障害年金
受給要件を満たしていれば障害年金を申請することができます(当コラム「知っておきたい障害年金」参照)。

(2)自賠責保険による障害給付
自損事故以外の交通事故により脳損傷を受けた場合は自賠責保険が適用されます。医療費限度額は120万円。後遺症の程度に応じた等級別に75万から4000万の賠償が受けられます。

(3)労働者災害補償保険(労災)による障害給付
業務中の自己や通勤事故は労災が適用され、医療上の自己負担は発生しません。

(4)その他
通常の医療保険、高額療養費は当然利用できます。医師の判断によって自立支援医療(精神通院医療)の対象にもなります。また、身体障害者手帳1・2級の方、精神障害者手帳1級の方は医療保険の自己負担分を助成する重度障害者医療費もあります。

4.その他

(1)成年後見制度
私たち専門職が日頃から係わっている制度です。
高次脳機能障害では、症状からわかるように日常生活において「金銭管理」「契約行為」の面で多くの不都合が生じてくると思います。このような点からも当然、高次脳機能障害の方々の成年後見制度利用は可能です。
交通事故を起因とした高次脳機能障害の場合、示談交渉において保険会社から成年後見人を立てるよう言われるケースが多いと聞いています。
保険会社から言われたからという理由で申立てをすることは本来の制度の趣旨からはズレた発想となりますが、実際は、本人の今後の生活を保障するための大事な交渉となりますので、本人の症状や判断能力をよく把握した上で申立てに繋げる必要があります。
また、「自身で認識しにくい」「周囲が認識しにくい」などの特徴から、生活のしづらさ(悪徳商法に引っかかる、金銭管理が上手く出来ない、手続き等に困難さを抱えている)があるにもかかわらず、成年後見制度利用まで上手く繋がらないケースが多く存在する様です。
本人が成年後見制度利用を必要と考えていないケース、家族は利用しようと思うが上手く繋がらないケース、家族を含む周囲の理解が乏しく利用に繋がっていないケースなど様々あると思います。
申立てに躊躇されている方、疑問を感じられている方がいましたら、各家庭裁判所や専門機関へお尋ねください。

(2)家族会
高次脳機能障害については、長期的・連続的な視点での関わりが求められます。その中心的担い手となるのがご家族です。ご家族の想いや悩みを語り合う場、情報交換の場として家族会があります。

  • ・「高次脳機能障害 プラム」 事務局:福岡県筑紫野市(092-928-7878)
  • ・「福岡 翼の会」 福岡市中央区長浜1-2-6(092-732-0539)

(3)障害者雇用施策
高次脳機能障害者については、従来より職業リハビリテーションサービスの対象となっていますが、精神保健福祉手帳等障害者手帳を取得することにより、障害者雇用率への算定が認められます。

本人の状況により、様々な「生活のしづらさ」を抱えることが想定されます。「以前のように生活を維持しなければならないと焦ってしまう方」「仕事がなくなり、暇な時間をどうすごしたらいいかと悩む方」「不安な状況で1人で行動しても失敗が多く、うつ的な状況になる方」など。主要症状を要因として、社会環境に適応することが困難な状況に陥ってしまう障害であることを理解していきましょう。この状況を改善していくために、上記のようなリハビリ実施、福祉制度等の活用が求められると思います。まずは、本人・家族が困っている状況、また相談したい内容に応じて、早期に適切な相談機関や医療機関へ繋がっていきましょう。