みると通信:知っておきたい障害年金その1

1 はじめに

精神障害者や知的障害者は、どのように収入を得て生活をしていけばいいのか、不安に思われるのではないでしょうか。また、障害者を支えている家族にとっても、障害者の所得保障の問題は重要です。
65歳未満の障害者が多く利用している制度は、障害年金と生活保護です。そこで、今回のテーマは障害年金を取り上げてみたいと思います。
障害のある方の収入について、障害年金を受給できるかということは、必ず確認すべき重要なことです。年金であれば受け取ったお金の使い道について、チェックされることもありませんし、生活保護の受給に比べて、気持ちの面で負担がないのではないでしょうか。
しかし、障害年金制度は複雑な上、いろいろと問題も含んでいます。そこで、障害年金とはどんな制度でどんな問題があるのかについて考えてみたいと思います。

2 受給できる要件は?

まず、障害年金ってどんなものだろうというイメージをつかんでもらうため、ごく簡単に制度の説明をしましょう。
障害年金には、国民年金から支給される障害基礎年金と厚生年金保険から支給される障害厚生年金があります(共済年金も厚生年金保険と同じような制度になっています。)。障害の原因となった病気やケガについて初めて診断を受けたとき(この日を初診日といいます。)に加入しているのが国民年金であれば障害基礎年金のみ、初診日に加入しているのが厚生年金であればいわゆる2階建て部分の障害厚生年金もあわせて支給されます(特例措置、経過措置やさらに細かい規程がありますので、一見要件を満たさないようでも要件を満たすこともあります。詳しくは、社会保険庁のHPを確認されるか、社会保険事務所や市役所等の年金課に問い合わせてください。)。
障害年金を受給できる要件は、(1)初診日要件、(2)納付要件、(3)障害状態要件という3つの要件を満たす必要があります。「受給三要件」と言われています。

3 初診日要件

(1)初診日要件とは、障害の原因となった病気やケガについて初めて診断を受けたときに、公的年金に加入していたかということです。20歳前に初診日がある場合、障害基礎年金ではこの初診日要件は問題になりません。国民年金は20歳から加入しますので、20歳前に障害が発生していた場合は加入の有無は問題にならないからです。知的障害や先天性の障害の場合は、20歳前に障害が発生していたと考えられるので、やはり初診日要件は問題になりません。

この初診日要件は、精神障害者の支給認定においてよく問題になります。
例えば、初診日要件をみたしていたのだけれどそれを証明できなくなる場合があります。一般的には、障害の原因となった病気やケガについて初めて診断を受けたときの診断書で初診日がいつであるかを判断します。
しかし、障害の程度がなかなかはっきりしなかったり、ご本人が障害を受け入れるのに時間がかかったり、障害年金を請求する気持ちになるまで時間がかかったり、生活が混乱していて年金請求の手続ができなかったりしている間に、カルテの保存期間(法律では5年と定められています)が過ぎてしまうことがありまが、そうすると、初診日がいったいいつだったのか、証明することが難しくなります。

とはいっても、診断書がないけれど裁判所に訴えをおこして不支給処分を取り消すと判断された例があります。例えば、幼少期から聴覚障害がある女性が、20歳当時の障害程度を証明する診断書がないけれど、幼少期に難聴と診断されて身体障害者手帳が交付されていたこと、医師の意見書、「呼びかけても応じない・・」などの中学時代の友人や担任らの陳述書によって、障害が20歳前に発症していたことを証明して、不支給処分を取り消した裁判例(神戸地裁平成23年1月12日判決 判例集未登載)などが参考になります。

診断書がなくても、根気よく資料を集めて、初診日を証明することができれば、受給できる可能性があるということです。
初診日要件については、まだまだ問題があります。次回は、一見初診日要件を満たさないように思われる事案で、初診日要件が認められた例などを見ていきます。