アルコール依存症について知ろう【第1回】

北九州成年後見センターで受任する方の中に、「2親等以内の親族による申立てが困難で、福祉の増進を図る必要がある」として北九州市長が申立人の場合があります。その申立ての中で、「アルコール依存症の既往歴あり脳障害や脳委縮のため認知症発症。配偶者とは離婚しており、子供を始め、親族とも交流が無い。」という案件がみうけられます。(みると通信第9回 後見人申立事例3 参照)実際に、後見人就任後に、ご家族に連絡をしても、近しい親族でさえ関わりを拒否されることも少なくありません。アルコール依存症は、家族など周囲を巻きこみながら進行し、身体・精神のみならず家族・人間関係を徐々に破壊していく人間関係の病という一面もあります。アルコール依存症は、いったいどのような病気なのか、症状や周囲に与える影響、回復の過程、事例も含めた3回シリーズで理解を深めていきたいと思います。

【第1回】アルコール依存症の現状と進行過程について

まず、依存についてすることの意味ついて考えてみたいと思います。「依存」とは、他人や組織、モノなどに頼って存在、または生活することを指します。生きていくうえで誰しも何かに頼って生活をしているので、依存自体は悪い事ではありません。しかしながら、「依存症」になると、ある物質や行動に次第にはまっていき、「害があるのに止められない」という不健康な習慣へのめり込み、生活そのものが、依存対象を獲得することが中心に変わり、様々な悪影響があっても止められない状態に陥ります。

依存症は、大きく3つに分類されます。

  • 物質依存:物質を体内に摂取することによって起きる変化、その快感にはまっていく(アルコール/薬物etc…)。
  • プロセス依存:ある行為の始まりから終わりまでの高揚感を与えてくれるプロセス(過程)にはまっていく(ギャンブル/買い物/ゲームetc…)
  • 関係依存:人との関係にハマっていく(共依存/恋愛etc…)

アルコール依存症は物質依存の一種で、アルコールを摂取する人であれば誰にでもかかる可能性のある精神疾患です。「依存」を「何かに頼らないと、なにもできない」、という意味にとらえて、「意思が弱くだらしない人がかかる病気」と考えている方もいると思いますが、それは正しくはありません。

実際、依存症がどの程度存在するか、厚生労働省研究班が発表したデータを確認してみると、アルコール依存症は、男性は95万人、女性は14万人で合計109万人、依存症予備軍であるハイリスク飲酒者は1000万人と言われています。ただ、アルコール依存症に罹患しても、誤解や偏見があったり、飲酒開始後、長期間かけて発症し、自覚がないまま進行する病気であることも関係し、依存症治療へ繋がるのは4万人程に留まっています。

次に、依存症がどのような過程を経て、進行していくのか説明していきます。

スタート地点

習慣飲酒が始まりです。機会あるごとに、気分の高揚を求めて飲むようになります。そうなると、酒に強くなり(耐性の形成)、酒量が増加していきます。

依存症との境界線

精神依存が形成されてます。ほとんど毎日飲むようになり、酒がないと物足りなく感じます。ますます酒量も増えていき、ほろ酔い程度では飲んだ気がなくなり、酩酊するまで飲まないと満足できなくなります。ブラックアウト(記憶の欠落)なども起き、生活の中で、飲むことが次第に優先させるようになります。

依存症初期

身体依存が形成されます。酒が切れてくると、寝汗・微熱・悪寒・下痢・不眠などの軽い離脱症状が出現し始めますが、本人は風邪や体調不良だと思い、自覚しないことが多いです。この頃になると、飲む時間が待ちきれず、落ち着かなくなり、イライラすることも増えて、家族から酒をひかえるよう注意され始めます。

また、酒が原因の問題(病気やケガ、遅刻や欠勤、不注意や判断ミス、飲酒運転検挙など)が起きはじめ、節酒を試みることもあります。

依存症中期

トラブルが表面化 二日酔いの朝の軽い手のふるえや恐怖感など、酒が切れると出る離脱症状を治すために、迎え酒をするようになることもあります。家庭内のトラブルが多くなり、飲酒することに後ろめたさを感じ、攻撃的になったり、飲むためにウソをついたり、隠れ飲みをするようになります。お酒が原因で内科疾患を発症し、入退院を繰り返したり、職場でも、酒臭をさせたり、ミスが増えたりと、上司からの注意・警告が始ます。

依存症後期

一人酒を好むようになり、食事も取らずに、飲み続けます。コントロールしてうまく飲もうとしますが、失敗します。酒が切れるとうつ状態や不安におそわれるため、自分を保つために飲まざるをえない状態になります。また、連続飲酒発作、幻覚(離脱症状)、肝臓その他の疾患の悪化により、仕事や日常生活が困難になります。家族や仕事、社会的信用を失い、生活が破綻し、最後は死に至ります。

 

発症するまでの期間や経過は人によっても異なりますが、一般的には20代で習慣飲酒が始まり、30代で身体への影響が出るようになり、内科の病院へ入退院を繰り返すようになり、40代で生活に支障をきたし、精神科での治療を開始し、酒を断つことが出来なければ、死に至ります。アルコール依存症者の平均寿命は52歳と言われており、現在の、日本人の平均寿命と比べると30年弱も短いことになります。

次回は、依存症の特徴について触れていきたいと思います。