みると通信:認知症を知ろう ~アルツハイマー型認知症とは~

認知症とは

認知症は、脳や身体の病気によって、脳の機能が著しく低下して、日常生活に支障をきたす状態のことをいいます。厚労省の2015年の発表によると、2012年の時点で65歳以上の認知症者数は462万人(65歳以上で7人に1人)、2025年には、約700万人(65歳以上の5人に1人)になると見込まれています。認知症は、早期発見・治療で、進行を抑えることが出来ますし、また、原因となる病気の治療によっては症状が軽快する場合もあります。早期発見・治療の大切さは、ほかの病気と同じです。
認知症の症状についてですが、中核症状と呼ばれるものとそれに伴っておこる周辺症状とに分けられます。中核症状には、物事を記憶することが困難になる(記憶障害)、場所や日時、人がわからなくなる(見当識障害)、考えるスピードが遅くなり物事への処理が困難となる(理解・判断力の低下)、計画的に物事を進めることが出来なくなる(実行機能の低下)などがあります。また、本人が元々持っている性格、環境、人間関係など様々な要因が絡み合って、うつ状態や妄想のような精神症状や、徘徊、不潔行為などの日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こってきます。これらを周辺症状と呼びます。

ひと言に認知症と言っても、様々な種類があります。脳の神経細胞が早期かつ急激に失われていく「アルツハイマー型認知症」や脳の血管障害(脳梗塞や脳出血)によって起こる「脳血管性認知症」は代表的なものです。他にも、初期に幻視や妄想が出現する「レビー小体」、性格の変化や理解不能な行動を特徴とする「前頭側頭型認知症(ピック病)」などの認知症があります。今回は、「アルツハイマー型認知症」をとりあげます。

アルツハイマー型認知症とは

アルツハイマー型認知症は認知症の約半数を占めると言われています。 その原因は不明ですが、脳内でさまざまな変化がおこり、脳の神経細胞が急激に減ってしまい、脳が萎縮して高度の知能低下や人格の崩壊がおこる認知症のことを言います。高齢者ほどその発症率は高いものの、近年では若年性アルツハイマー病にかかる人も増えており、年齢に関係なく発症する病となっています。

アルツハイマー型認知症の症状

症状の経過を、初期・中期・後期に分けて説明します。
初期では、人や物の名前を忘れる(記憶障害)、日時の感覚が鈍くなる(時間の見当識障害)などの症状からはじまり、大事なものの置き場所を忘れる、鍋を焦がす、買い物で同じ物を買ってくるなどの様子が見られます。また、「あれ」「それ」といった言葉を多用したり、外出や人付き合いを避けるなどの行動をとったりする様になります。中期では、場所の感覚が不確か(場所の見当識障害)になります。そのため、近所以外では迷子になることが多くなり、買い物を一人でできない状態となります。また、気候にあった服を自分で選んで着たりすることができにくくなります。この時期くらいから、徘徊や幻覚、妄想、不潔行為などが現れ出し、家族の介助なしには安全な生活を送ることが難しくなります。ただし、表面的な会話は可能で、入浴についても、入ることを忘れることがありますが、自分で体をきちんと洗うことができることも多い様です。後期では、配偶者や子供の顔がわからない(人物の見当識障害)、トイレの場所がわからない状態となり、会話はつじつまが合わない、もしくは成立しなくなります。寝巻きの上に普段着を重ね着してしまう、ボタンをかけられない、体をうまく洗えない、尿便失禁などが見られるなど、ほとんどすべての日常生活場面で介助が必要になります。

アルツハイマー型認知症の検査

記憶力テストやCT、MRIなどの検査が主流です。ただし、早期発見に結びつくことは難しく、異常が発見された時には進行している場合が多い様です。最近では、PETやSPECTと呼ばれる検査で、CTやMRIではとらえにくい早期のアルツハイマー型認知症がかなり高い精度で把握できるようになっています。ただし、予防的検査の場合は、保険を適用することが出来ないため検査費は自己負担となります。(症状や病院の検査システムなどによっては、保険が適用されるかもしれません。事前に検査される病院等で確認してみてください。)

アルツハイマー型認知症の治療方法

  • ①薬物療法
    現在日本で、主にアルツハイマー型認知症で使用されている薬は4種類です。スムーズな情報伝達を助ける「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」のドネペジル塩酸塩(アリセプト)、レニミール、イクセロンパッチと、情報伝達を整える「MMDA受容体拮抗薬」のメマリーです。メマリーは上記3種類と異なる働きを持つため、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬と併用されることもあります。また、ドネペジル塩酸塩については、ジェネリック医薬品が利用できるようになりました。
  • ②非薬物療法
    認知症では、薬だけの治療に頼らず、その方にあったケアを通して、日常生活の質を上げていく支援も大切です。リハビリテーションや、心理療法などを通し、脳を活性化して残っている認知機能や生活能力を高めるよう働きかけます。
  • 理学療法・作業療法
    運動や作業を通じて、本人らしい生活の維持を支援します。
  • 認知症リハビリテーション
    簡単な計算や音読、書字などを行います。
  • バリデーション療法
    徘徊、不穏なども意味のある行動としてとらえ、傾聴、共感を行います。
  • リアリティオリエンテーション
    自分は誰でここはどこなのかなど現在の環境を正しく理解する見当識への刺激を与えることで、認知機能の低下を防ぐことを目的としています。
  • 回想法
    過去の思い出を語ることを通して、記憶を刺激し感情の安定を図ります。
  • 音楽療法・芸術療法・園芸療法など
    音楽の鑑賞や演奏、植物を育てるなど様々な刺激を脳に与えることで自発性の改善を図ります。
  • アニマルセラピー
    動物とのふれあいを通じて感情の安定を目指します。
  • これらの非薬物療法は、認知症対応型のデイサービス(介護保険適応)、認知症デイケア(医療保険適応)などでも実施されています。実施している内容等、詳しくは地域包括支援センターや、担当のケアマネージャー、各事業所へおたずねください。

次回は、「脳血管性認知症」について説明します。