みると通信:事例6

救急病院に搬送された60才代男性の財産管理のために、親族が後見申立をした事例

Fさん

類型:後見   申立人:異父妹
年齢:60才代 性別:男性

申立の経緯

●X病院でのFさん

Fさんは自宅で倒れているところを発見され、X病院に緊急搬送された。脳出血が認められ、緊急手術を施行した。「意識障害が遷延し、発語もなく意思疎通は困難。今後も改善の可能性は低く、日常活動は全介助で、改善の見込みはほとんどない」との医師の所見であった。AさんBさんともにすでに亡くなっており、本人に婚姻歴はなく子もいなかった。病院にはCさんが見舞いに来ていた。

術後の経過もよく長期療養型病院への転院が検討された。しかしながら、本人の財産管理をする者がおらず、X病院への支払いが全くできていないため、話を進められなかった。寝間着は病院の手術着を借り、歯ブラシや歯磨き粉、シャンプーなども病院の看護師が持ってきたものを使っていた。

後見申立てへ

X病院のYソーシャルワーカーが、「Fさんには成年後見人の選任が必要」と考え、Cさんに相談した所、申立ての了承を得た。Cさんはさっそく家庭裁判所に相談にいったが、BさんはFさんの実母ではないため、CさんとFさんは親族関係になかった。Cさんによる申立ては不可能になった。
そこで、Yソーシャルワーカーが、包括支援センターに対応を相談。包括支援センターの社会福祉士が市長申立も視野に2親等内の親族調査に着手した。Fさんの実母はEさんであり、昭和20年にFさんを出産後まもなく死亡していた。更にEさんはAさんと婚姻前に別の男性と婚姻しており、その男性との間に子ども(Dさん含む3名)がおり市外に居住していることが分かった。そこでDさんに連絡を取った所、「Fさんの存在は全く知らなかった。2人の姉は80才を過ぎており高齢である。自分も後見人になることはできないが、申立てはしようと思う。」という回答を得た。DさんはX病院に行きFさんに面会、Yソーシャルワーカーから現状の説明を受けた。その後、Dさんは家庭裁判所に成年後見人の選任申立てを行った。

後見人選任直後

●財産調査

北九州成年後見センターはFさんの成年後見人に就任した。担当になった弁護士・社会福祉士・事務局員がチームでX病院を訪問し本人面会して、Yソーシャルワーカーおよび事務長と話し合いを行った。X病院は救急病院であり、入院から1年経過している患者は異例であるといわれた。すでに入院費の滞納は90万円を超えていた。本人の財産調査後に、支払方法について再度協議し、転院についても話を進めていく事で了解を得た。
Dさんと連絡を取ったが、「申立てはして、責任は果たしたので、後の事は任せる」という意向であった。その後、Cさんと面会し「財産状況は把握していない。本人は元公務員で、Aさん、Bさんと自宅で暮らしていた。Aさんは15年前、Bさんが2年前に亡くなり、1人暮らしだった。Bさんの遺骨が入った骨箱が仏壇の前に置いたままになっているのが、気がかりなので納骨をしてほしい。」と話を受けた。
チームで自宅にいき、確認したところ仏壇の前にBさんの遺骨が入った骨箱が安置されていた。また、タンスの引き出しの中から、通帳が3通見つかった。更に自宅に届いていた郵便物の中から共済年金組合からのハガキを発見した。把握した金融機関に届出を行い確認した所、合計で4千万円ちかい預金があった。
また、共済年金組合相談室に確認した所「65歳になったときに組合より現況届けの書類を送ったが返送がないため年金支給が停止されている現状だ」という事であった。後見人として退職共済年金が再開される手続きを行い、支給停止分の遡及請求の手続きも行った。また、老齢基礎年金についても受給権が発生していた為手続きを行った。結果的に合計で月額28万円の年金受給を受け取ることとなった。
預貯金が確保されたため、滞納になっていたX病院入院費・固定資産税・市県民税・介護保険料の支払を行った。

●Bさんの納骨
Aさんが納骨されている壇寺に連絡を取った所、納骨堂の管理料が一度も支払われていなかった。更に、納骨堂の管理する者もいない事を理由に、Bさんの納骨は拒否され、Aさんの遺骨についても改葬するように依頼された。そこで、宗派を問わず永代供養が依頼できる共同納骨堂に、AさんとBさんの遺骨および亡くなった後の本人の納骨ができるように手配した。壇寺には滞納していた管理料を支払い、Aさんの遺骨を改葬、Bさんの遺骨を納骨した。

●身上監護
安定した年金収入が確認できたこともあり、Yソーシャルワーカーの調整で長期療養型Z病院に転院し、北九州成年後見センターの社会福祉士が身上監護のため毎月訪問することになった。面会時には、ベッドに横臥している本人に簡単な声かけを行っていたが、視線は合うが本人からの発語が確認できることはなかった。病棟看護師によると、症状の大きな改善は見られないが、身体状況は安定している調子の良いときは簡単な意思疎通は可能とのことであった。

Fさん死後の事務

入院後2年を迎える頃、肺炎の為、本人が亡くなった。Dさんとは電話がつながらなかった。Cさんの協力を得て葬儀を行ったが、相続人ではなかったため費用の負担は依頼できなかった。家庭裁判所と協議の結果、本人の相続財産から葬儀費用を支出し、既に手配していた納骨堂に納骨した。
相続人は、Dさん含む3名であったため、本人死亡の事実と相続財産引渡しの連絡を行った。するとDさんの夫から電話連絡があり、「Dさんは入院中で相続財産の引渡しに行くことができないため、自分が代理で引き渡しを受けたい」と希望された。Dさんの夫は相続人ではなく引き渡すことができなかった為、他の相続人であるDさんの姉2人と同行して北九州成年後見センターに来所された。担当の弁護士から、相続人であるDさんの姉2名に対し相続財産を引き渡した。