みると通信:高次脳機能障害について知ろう【第1回】

第1回 高次脳機能障害の症状と特徴

脳の働きの中でも、言語・思考・記憶・判断・感情などの認知機能は、他の動物にはない人間らしい重要で高度な脳の機能と言えます。これらの脳の働きを「高次脳機能」とし、病気や事故などの様々な原因で脳の一部が損傷を受けた結果、これらの認知機能に障害が残った場合を「高次脳機能障害」と呼びます。
高次脳機能障害は、日常生活に様々な支障をきたしますが、障害が外見上では分かりにくく、周囲の理解を得にくいため本人や家族に大きな負担を生じることとなります。
今回は、3回シリーズ((1)障害の症状と特徴(2)リハビリテーションと福祉制度(3)事例)で高次脳機能障害の理解を進めていきたいと思います。

主な原因

高次脳機能障害の原因として多いのが、脳出血や脳梗塞などの「脳血管障害」です。また、交通事故や転倒、スポーツ事故などの「外傷性脳損傷」でも非常に多く見られます。その他、「脳炎」「低酸素脳症」「脳腫瘍」「感染症」などで起こります。もともとの病気や疾病とは(たとえ治癒や症状が固定して)無関係に、「高次脳機能障害」は障害として残ります。

主要症状

診断としては、下記の認知障害を主要症状と見ます。

記憶障害

側頭葉内側の障害により引き起こされる症状です。新しいことを覚えられなくなる、また以前のことを思い出せなくなる状態で、日常生活においては、「物の置き場所を忘れる」「何度も同じ話や質問を繰り返す」「約束を忘れてしまう」などの現れ方をします。

遂行
機能障害

前頭葉の障害により引き起こされることが多い症状です。目標を決めて、計画を立て実行し、その結果に基づいて行動を修正することが困難になる状態です。日常生活において「優先順位が決められない」「ひとつひとつ指示がないと行動できない」「自分で計画を立てられない」「行き当たりばったりの行動をとる」などの場面が見られます。

注意障害

前頭葉や頭頂葉の障害で引き起こされます。物事に集中できない、また気が散り易くなる状態で、日常生活において「仕事や作業においてミスが多い」「複数の要件をこなそうとすると混乱する」「ぼんやりする」「言動にまとまりがない」「1つのことを長く続けることが出来ない」などが見られます。

社会的
行動障害

前頭葉と側頭葉の障害によって引き起こされることが多い症状です。感情や行動を自分で調整することが難しくなる状態で、日常生活においては、「急に泣いたり、怒ったりする」「ほうっておくと何もしない」「思い通りにならないと攻撃する」「他人と上手く交流できない」などが見られます。

 その他の症状

その他の症状として、失語症(話す、聞く、読む、書くことが難しい)、失行症(手足は動くが日常動作が上手くできない)、失認症(知覚の認識が難しい)、半側空間無視(視界空間の半側を見落とす)、半側身体失認( 自分の身体半側を認識できない)、地誌的障害(地理や場所がわからない)などがあります。

ここで、高次脳機能障害の学術・医学用語としての捉えと行政用語としての捉えについて触れておきます。

学術・医学用語としては、脳損傷に起因する認知障害全般を意味しており、失語症、失行症、失認症などの症状(上記のその他の症状)ほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害(上記の主要症状)などが含まれると考えます。
この考えからすると痴呆(認知症)もこの概念に含まれることになります。

一方、行政用語としては、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害(上記の主要症状)などの認知障害を主たる要因として、日常生活及び社会生活への適応に困難を有する一群を高次脳機能障害と呼んでいます。
ここには、以前から認知症や失語症といった明らかな症状のある人以外にも、日常生活において生活のしづらさを抱える人がいるということが想定されており、国としても平成13年から取組んできたモデル事業でデータを集積し、その結果を受け支援対策を推進してきた経緯があります(現在の高次脳機能障害の診断もこの取組みから基準が設けられます)。
いわゆる「見えにくい障害」を限定した用語であるとも言えます。

特徴

高次脳機能障害という言葉は、以前に比べると社会的認知度は高くなってきています。しかし、実際のところ、周囲から理解されていない場面が多くある様です。

そこには、

  1. 症状の重複のあり方によって、障害状態像が人により異なる
  2. 本人自身も障害を十分に認識できない
  3. 外見からの障害が分かりにくい

などの特徴があることが理由として挙げられます。これらの特徴から学校や仕事場面などにおいて周囲から「怒りっぽい性格だ」「怠け者だ」と誤解を受けて経過してしまうことも想定されます。本人や家族は、この気づかれにくい障害にいろいろな悩みを抱えることとなります。

これらの症状や特徴、障害の捉えの経緯から見て、高次脳機能障害が一般的な診察でも見落とされやすく、自身でも自覚が薄い障害であることが理解できます。そのため、家族を含む周囲が日常生活、社会生活の中で気づき、適切な治療や支援に繋げていかなければならないということが言えると思います。
この場合、「以前と違うな(何か様子がおかしい)」といった気づきの時点からの相談が望ましいです。何がどのように違うのか、おかしいのかは、はじめのうちは上手く言語化することが難しいため、相談しながらの確認作業がベストでしょう。

高次脳機能障害についての対応は、適切なリハビリテーションが有効であると言われています。また、「慣れない環境では症状が不安定となる」「時間経過や疲労状況で症状が増幅する」などの特徴から環境調整を意識する必要があります。さらに福祉制度等の活用も必要不可欠なものとなるでしょう。これらの点について次回、解説を行っていきます。