みると通信:統合失調症について知ろう 【第4回】

―事例―

全4回で統合失調症の症状と治療法、また障害と支援・サービスについて連載してきました。今回は、各内容に関連した事例を取り上げました。1つの例として参考にしていただければと思います。

◇後田 見人(うしろだ けんと)氏の状況

本人:40代半ば 男性
診断名:統合失調症
経済基盤:障害基礎年金2級*(約80万/年)
家族構成:父、母、兄弟なし

◇生活歴と精神科受診するまでの経過

  • A市にて出生。出生、発達に特に問題なし。地元の小中学校を卒業後、私立高校の特進クラスに進学。
  • 高校卒業後は県内の大学に進学し1人暮しとなる。大学3年時、友人関係に悩み「大学を辞めたい」と言い出し、学校を休みがちとなったのを機に実家に戻る。1年の休学後、実家から復学し、23才時大学を卒業。
  • 大学卒業後、県内の電気メーカーに就職。24才時結婚。1子をもうける。
  • 26才時仕事が徐々に上手くいかなくなり、又、職場の人間関係にも悩み、誰にも相談せずに退職。
  • 退職後は司法試験を受けようとしたり、アルバイトを見つけてはその日で辞めたりと行動にもまとまりを欠く状態。又、元々すれ違いの多かった夫婦関係も更に上手くいかなくなり、27才時離婚。
  • 以後、実家に戻り、ひきこもりの生活となる。間もなく、不安感を訴え、寝付けない日が続くようになる。
  • 更に昼夜逆転し夜中にステレオの音量を上げるなど、近所迷惑となり、28才時、両親が地区の民生委員からの助言で区の高齢者・障害者相談係*に相談。精神科への受診を勧められ、受診することとなる。

◇受診後と入院の経過

  • 初回受診時「お前は気が弱いから死ねんやろ」など命令口調の幻聴の症状があることが認められ、又、就労中にも「職場の皆が自分を監視しているようだった」と話す。診察の結果「統合失調症」と診断を受け、本人の同意もあり3か月入院。退院後、暫くは通院を続けるが、間もなく薬を飲まなくなり、受診も途絶える。
  • 30才時、幻聴が激しくなり、又、夜中に大声でひとりごとを言うようになり、両親に伴われ受診し入院。
    30代~40代にかけて、受診中断→再発→入院→通院を2回繰り返す。この間、父親が病死。母親との2人暮らしとなる。
  • 40才時に4回目の入院。退院後より病院付設の訪問看護ステーションより訪問看護*導入。
  • 42歳頃より母親に認知症の症状が現れはじめ、それに伴い、食生活、生活リズム、薬の服薬など生活全般に不規則となり、又、周囲に対して被害的な感情が増し、訪問スタッフの勧めもあり診察を受け、本人の希望で5回目の入院。並行し包括支援センターが関わり、母親も入院となる。

◇5回目入院時の状況と退院まで

  • 入院後、症状落ち着いた頃より、病院の精神保健福祉士(相談員)と退院後について話し合う。
  • 本人の思い。
    「別れた家族のことを忘れていない。できれば子供がどういう状況か知りたい。」
    「その為に社会復帰(本人にとっては仕事に就くこと)をしたいが不安も多い。」
    「服薬が大事なことは理解しているつもりだが精神科の薬を続けていると仕事に就くのが難しいと思う。」
    「訪問看護は継続したい。精神科デイケア* ホームヘルプサービス*については、馴染めそうにない。」
    「母親が入院し、今後の生活に不安があるが退院はしたい」
  • 院内でカンファレンス(本人、主治医、訪問看護スタッフ、病棟スタッフ、精神保健福祉士)を実施。
    本人の思いを共通認識し、退院前後の支援について協議。「訪問看護については生活に不安もあり、2回/週に増やす」「退院後の生活について地域の相談機関である障害者地域生活支援センター*に相談する」「生活費については本人の年金の預金があり、まずは年金の範囲内での生活が可能か様子を見る。(年金だけでの生活が難しくなった場合は生活保護*の相談ができることを本人に説明)」などを本人、スタッフで確認し、退院の準備をすることになる。
  • その他、退院までの手続きと相談・支援。
    自立支援医療*継続の手続き  □限度額認定証*の手続き  □訪問看護の契約とサービス内容の確認
    退院前訪問の実施
    以上を行い、入院より4か月後に退院。

◇退院後の経過・支援・現在の状況

  • 1回/2週間の定期診察にも安定的に来院。幻聴が時に入るが、無視できており、それに大きく影響を受けていない。
  • 2回/週の訪問看護は継続中。栄養状態、状況の相談、薬の整理と服薬の確認、日常の相談、健康相談などを行い日常生活は安定傾向にある。
  • 病院の心理教育に参加。「自分の飲んでいる薬のことが良くわかった」「同じ体験をしている人がいると感じ気持ちが楽になった」と感想あり。
  • 障害者地域生活支援センターに精神保健福祉士と出向き、日常生活と就労支援サポート体制について説明を受ける。その後、相談を継続。又、就労継続支援事業*の見学を行う。障害程度区分認定*(訓練等給付)の申請と数回の体験利用を行い、通所契約を結ぶ(日中活動の場の確保)。
  • 老人保健施設に入所した母親の面会に2回/月程度行っている。

      は、サービスや社会資源です。*つきは、コラム:統合失調症について知ろう【第3回】前半後半に内容を掲載しています。

<コメント>
 幻覚・妄想状態を呈した場合、早めの通院もしくは入院により症状が改善することが多くあります。ただ、症状が改善することで、通院しなくなったり、薬を服用しなくなったりすると、すぐに症状が再発してしまいます。今回の事例も3回目までの入院は同様です。4回目の退院後、訪問看護サービスを利用していましたが、キーパーソンである母親が認知症を発症することで、本人の症状のみならず、母親を含めた世帯での生活維持が困難な状況となり5回目の入院へ至っています。5回目の入院では、事前に訪問看護が導入されていたことから日常生活の情報が把握できており、上手く治療に繋がっています。(このように医療機関への診察では、症状の部分だけでなく、日常生活のサイクルなどを医療機関に情報提供しながら治療を進めていくことが大切です。そのため、診察時には本人の生活リズム、習慣等を把握されている方に同席いただく工夫も必要でしょう。)また、生活全般に関する本人の思いを抽出し、それに沿ったプランを立てることが出来たことが退院後の良い経過に繋がったと考えられます。特に、訪問看護や心理教育にて本人自身が病気や薬についての理解を進めたこと、就労継続支援事業で安心して就労に向けた支援を受けることが出来たことがキーになったと感じています。今後については、自助グループへの参加や地域との繋がりの中で生活していくことが重要になるのだろうと思います。

統合失調症の特徴を知らない場合、その人の言動に対して「かわった人だ」と距離を置かれる方も多いのではないでしょうか。今回の事例で見ると、治療が進み、本人の症状が安定した段階で、精神保健福祉士が本人の思いを聞き取っています。事実に即した希望や不安(表出することが難しい、苦手な人も多い)は、しっかりと持たれています。不安を軽減させながら本人のニーズに沿った支援を展開する必要がありますが、周囲がシビアに見ることで、本人はさらに不安を増幅してしまい社会復帰を遠ざける結果につながります。この疾患に関する正しい理解が促進されていくことで、本来の彼ら自身の地域生活が実現するのだと考えます。