みると通信:任意後見制度について考えよう その3

法定後見と任意後見の関係

任意後見契約が結ばれているのに、法定後見開始の審判が申し立てられたらどうなるのでしょうか。当然、二人の後見人の権限が併存することは避けなければなりません。
任意後見制度と法定後見制度では、「自己決定権」を尊重する趣旨から、任意後見制度が原則優先されます。どういうことかというと、任意後見契約が結ばれている場合、原則として法定後見は開始しません。法定後見が開始していても、任意後見監督人が選任されれば、法定後見は取消されます。

例外として、「本人の利益のために特に必要があるときに限り」法定後見が優先すると法律で定められています。具体的には、任意後見受任者に不正な行為や本人に対して訴訟をしているなど任意後見を妨げる事情がある場合、任意後見契約で定めた任意後見人の代理権の範囲が狭すぎる場合、本人の法律行為について代理権だけではなく、取消権が必要な場合などです。このほか、裁判例では「合意された任意後見人の報酬額が余りにも高額である」場合もあげられています(大阪高裁平成14・5・6家月54巻11号54頁)。

よくある事案として、本人と関わりのある方が、本人に後見人が必要だと思い立ち、法定後見開始の申し立てをしようとしても、すでに任意後見契約が登記されていて、法定後見開始の申立を踏みとどまってしまうことがあります。また、適当な申立人がいない場合に、市長申立を試みようとしますが、任意後見契約が登記されていると、なかなか市長申立には至らないでしょう。

 しかし、任意後見契約が登記されていても、任意後見監督人が選任される見通しがなかったり、任意後見契約が不当な内容だったりなど、法定後見が必要な場合もありえます。そのような場合は、「本人の利益のために特に必要があるときに限り」にあたると主張して、積極的に法定後見開始の申立をするべきです。
実際に任意後見と法定後見との関係が問題となるのは、残念なことに、親族間に対立がある場合が多いようです。一方が法定後見開始の審判を申立てたら、他方が本人を抱きこんで任意後見契約を締結して対抗し、法定後見開始手続の進行を妨げるために任意後見制度を使っているのです。
本人の利益を保護するための制度利用とは到底いえないでしょう。

おわりに

任意後見制度は、「自己決定権」をキーワードに、本人の意思を尊重しながら、本人の利益を守る新しい制度としてスタートし、10年がたちました。しかし、家庭裁判所の介入が小さいため、悪質な受任者が本人の利益を侵害している例や、そもそも目的に反する間違った制度利用が見られます。適正に運用がなされるためにも制度そのものの欠陥を見直す時期にきているのではないでしょうか。

<参考文献>
・独立行政法人 統計センターホームページ
・「成年後見教室 課題検討編」社団法人成年後見センター・リーガルサポート
・「改正成年後見制度関係執務資料」監修 最高裁判所事務総局家庭局 財団法人法曹会
・「家事・人訴事件の理論と実務」北野俊光・梶村太市編 株式会社 民事法研究会
・「成年後見の法律相談」赤沼康弘・鬼丸かおる編 学陽書房