みると通信:日常生活自立支援事業と成年後見制度との関係について~第3回~

4 成年後見人等の仕事(ここでは後見人を中心として保佐・補助人は言及しません)

(1)民法859条では「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する
法律行為について被後見人を代表する。」とされている一方、858条では「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」とされていることもあって、成年後見人の仕事の中に本人の身の回りの世話や療養看護まで含まれているのではないかと思われるかもしれません。
事実、福祉サービスを提供する事業所や医療機関、さらには行政担当者の中には後
見人等が選任されると、本人の身の回りの世話を含め、ありとあらゆることを成年
後見人が行うと誤解している人もいます。
しかし、同居している親族等が成年後見人になる場合はともかく、専門職や法人、または一般市民が後見人になる場合には、本人の身上に配慮した財産管理を行うことに主眼があり、民法858条にいう「成年被後見人の生活、療養看護…」に関しては、家族や医療機関・福祉サービスを提供する事業所が本人のための生活支援や療養看護を行っている際、それらのサービス等が本人の意思や心身の状況に応じて適正になされているかについて目くばせを行うことが求められているにすぎないということです。
このようなことから、成年後見人は、財産管理人や、いろいろな仕組み等の管理人と訳されるadministratorとしての仕事が中心で、擁護者や一般的な意味での後見人と約されるguardianの仕事とは多少意味合いが異なっているといえるかもしれません。

(2)成年後見人の職務の中には、本人が利用料や医療費を支払う義務を負うことになる
以上、福祉サービスの利用契約や医療機関との間の診療契約等について本人を代理して契約を行うことも含まれますが、それらの契約に際し、成年後見人自身が連帯保証人となったり身元保証人となったりすることまで求められていません。ところで、この福祉サービスの利用契約や診療契約に関する代理をめぐっては困難かつ多くの問題があります。
この問題は特に本人が自らの意思を表明することが困難な場合に顕在化してきます。というのも成年後見人には、本人の居所を指定したり、医療に関する同意を行う権限がないためです。例えば、成年後見人の判断で判断能力がない本人を特別養護老人ホーム等の施設に入所させた方が良いと考える時や在宅若しくは入所中の施設で本人が転倒し骨折したような場合で医療機関において外科的手術が必要だとされた場合、成年後見人に手術に同意することを求められた場合にどう対応すべきかといった問題で、意思の代行決定に関する問題といわれています。
本人の生活レベルの向上や生命を維持するためには施設入所や外科的手術が必要だと思われるにもかかわらず、成年後見人には、それらに関する決定権がないので関与すべきではないといって放置することができるでしょうか。
このような問題について諸外国の中には、将来の福祉的ケアや医療的ケアについて判断能力があるうちに書面上意思を表明しておくこと、そして、その書面に一定の法的拘束力を認めているところもあります。
残念ながら我が国には、そのような制度がありませんが、先の事例の場合、次のように考えることができるのではないでしょうか。施設入所に関しては老人福祉法上の措置(やむを得ない事由による措置を略して「やむ事の措置」といわれています。)の考え方を参考とすることです。つまり、在宅生活が困難で施設入所が必要と考えられるにもかかわらず本人に意思表示ができないことそれ自体が「やむを得ない事由」で、事前に反対の意思が表明されていない場合で、かつ、そのような措置を行うことが本人の利益と考えられる場合に措置入所が行えるという解釈です。
成年後見人も、このような考え方に従って緊急避難的に施設入所を行うことも許されるのではないでしょうか。
次に、外科的手術に関してですが、医療に関する同意権は本人のみが持っていること、体にメスを入れることは形式的に刑法上の傷害罪にあたるということ等を考慮すると施設入所の場合のように考えることはできないと思います。
この場合、仮に成年後見人が手術に同意したからといって、その同意は法的無意味で、今の日本における法制度では医療行為を行う医師自身が判断すべき問題にしかならないのだと思います。延命治療や輸血を拒否するような信仰をしていたことが明らかような場合はともかくとして、行おうとする手術が医学界で標準的治療行為とされていて、かつ、その手術によって本人の通常の生活が維持されることとなり、通常であれば誰しもが手術を希望するであろうような場合には、本人の同意があるものと推定して手術を行ったとしても刑事罰に問われることはないはずです。
ただし、担当の医師個人にその判断を求めることは酷だと思いますので、病院内に倫理委員会等を設け、そのような事態に対応できるよう準備しておく必要もあるのではないかと思います。

(3)上記のような困難な問題ではなく、契約に際して成年後見人に(緊急)連絡先となることを求められた場合には、どう対応すべきでしょうか。
私が成年後見人であれば、「何かあった場合に本人を引取ったりすることはできない(義務はない)。」ということを明らかにしたうえで連絡先を引き受けると思いますし、多くの後見人は、そのように対応しているのではないかと思います。なお、福祉サービス提供事業所や医療機関との関係では、後見人に本人の身上に配慮する必要があることからサービス利用計画の作成や変更が必要となった場合には後見人自身からケース会議等への参加を求めるべきですし、定期訪問等の際には日程調整の上、ケアマネージャーの同席を求める等して本人の身上把握に務める必要があるでしょう。また、医療機関に対しても同様に行われている医療行為が標準的治療行為にあたるのか否か、処方されている薬に関する情報等について説明を求め
る等して本人の身上把握に務める必要があるでしょう。
このように、成年後見人の職務は、単に財産の管理を行えばよいというだけではなく本人の身上に配慮し、本人の生活向上を目指した財産管理を行うことが求められているといってよいと思います。

最後に近年、日常生活自立支援事業だけではなく法人後見業務を行う担う社会福祉協議会が見受けられるようになりました。
社会福祉協議会が法人後見業務を行う場合、本人に直接接することになる担当者はおそらく支援員ということになろうか思います。
場合によっては、一人の支援員が、ある時は日常生活自立支援事業の支援として、またある時は法人後見事業の支援員として利用者・本人の支援を行っているかもしれません。
既に述べましたように、日常生活自立支援事業における支援員は、利用者を他の支援者につなぐゲートキーパーとしての役割を担うものはであるものの、あくまでも利用者本人の使者に過ぎません。
一方、成年後見人は、本人の財産を管理しつつ本人を代理して契約等を行うことで本人の生活の質そのものにかかわる、いわば本人の代弁者であるといってもよいと思います。
成年後見人に選任されるのが法人である以上、後見支援員が本人を直接代理するということではありません。
しかし、法人内の決定に従って福祉サービス提供事業者や医療機関等と向き合うこととなることも事実なので、後見担当専門員とのコミュニケーションが必要となりますし、専門員・支援員に後見人の役割に対する十分な認識が必要となることを肝に銘じることが大切です。
超高齢化社会を迎え、認知症高齢者の増加が予想され、しかも、障害福祉サービスの利用も行政の措置から当事者間の契約に変化した今日、社会福祉協議会が法人として後見業務を担う機会も増えることが予想されます。成年後見業務は、日常生活自立支援事業の単なる延長線とにあるものではないことを十分に理解して本人の支援にあたらなければならないこと再確認することが求められているといえます。


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