みると通信:日常生活自立支援事業と 成年後見制度との関係について~第1回~

日常生活自立支援事業と成年後見制度は、いずれも知的障害、精神障害や認知症等のcol-sm-6精神上の理由により判断能力に問題があるため日常生活を送るうえで支障がある障がい者や高齢者を支援する制度として法律によって定められたものです。col-sm-6これらの制度は、共に本人の権利擁護のためにあるものですが、利用するための手続col-sm-6き、支援者の立場(支援者のできること、できないこと)等で多くの違いもあります。今回は、この日常生活自立支援事業と後見制度との違いについて整理してみたい
と思います。

まずは、それらの制度を利用する手続き面から始めたいと思います。

(1)日常生活自立支援事業は、社会福祉法で第二種社会福祉事業として位置づけられ(社会福祉法2条3項12号)、そのほとんどは全国の社会福祉協議会が国や地方公共団からの補助金で行っています。この日常生活自立支援事業は、かつて地域福祉権利擁護事業と呼ばれていたものですが、特徴的なところとして利用者との契約に基づいてサービスが提供されるという点です。
つまり、本人に契約締結能力があることが前提となっていますので、重度の知的障害や認知症で物事の判断が困難な場合には利用できないこととなり、この場合、後に説明します成年後見制度を利用することが必要になります。なお、成年後見人等が本人を代理して日常生活自立支援事業を利用することができるかについては否定的な見解が多く、現実に利用されている例はほとんどないのではないかと思います。

しかし、法律上の制限があるわけでもなく、多くの支援者が関わることは本人の利益につながることなので、成年後見人等による利用をことさらに否定する必要はないと思います。

(2)一方、成年後見制度(制度の詳細はコラムの該当箇所を参考にしてください)は、
① 民法により、本人や家族(四親等以内の親族)あるいは市町村長・検察官の申立てにより家庭裁判所が本人の能力に応じて後見開始・保佐開始・補助開始の審判を行うことで始まることになる法定後見制度と、
② 任意後見契約に関する法律により、判断能力に問題がない時、本人自身が将来後見人となってもらいたい人(任意後見人候補者)との間で、将来判断能力がなくなった場合、後見人が本人に代わって行うこととなる代理権の内容や範囲等について取り決め(任意後見契約)、それを公正証書とし、後にその候補者が家庭裁判所に任意後見監督人選任を申立てることで始まることとなる任意後見制度とに分けることができます。

法定後見制度においては、家庭裁判所が本人に全く判断能力がないと判断した場合には後見人が、本人の判断能力が全くないとまではいえないが著しく劣っていると判断した場合には保佐人が、本人の判断能力に少し問題があると判断した場合には補助人が選任されます。
法定後見では、家庭裁判所から選任された後見人等が財産管理などを行うことで本人の権利擁護を行っていくことになり、その基本は取消権と代理権ですが、本人自身が選任した任意後見人には取消権がありません。

ところで取消権は、後見人は本人が一人で行った契約等のほとんどを、保佐人は本人が保佐人の同意なしに行った契約等の内、重要なものを、補助人は家庭裁判所が補助人の同意を必要とした契約等を本人が補助人の同意なしに行った場合、それぞれ後見人・保佐人・補助人が一方的に行使することになります。
このため契約等の相手方が思わぬ不利益を被ることになりかねないので、法定後見の審判があれば、そのことが東京法務局で登記されることになります。
また、任意後見場合、取消権はないものの法定後見の重複を避けるために任意後見契約(本人の意思を重視するためとして原則として任意後見契約が法定後見に優先することになる。)がなされた場合にも東京法務局で登記されることになっています。

(3)ところで、日常生活自立支援事業と後見制度との棲み分けについては明確なものはありません。ということは、必要に応じ、両制度を使い分けたり、併用することで判断能力に問題のある本人の支援を行うことが可能だということです。
一方、両制度が利用されている現状にはいくつかの問題点があるように思います。
例えば、本人に全く判断能力がないと判断された場合に審判されるはずの後見開始の審判が、判断能力が(著しく)劣っているに過ぎない場合にまでなされているのではないかという問題、日常生活自立支援事業では継続的に利用料金を支払うことになるですが、保佐(補助)開始の審判等がないまま地域包括支援センター・保護課の職員やケアマネージャーに促されるままに本人と社会福祉協議会との間で契約をなされているという問題(極端な場合、家庭裁判所に申し立てを行えば後見開始の審判が出されるであろうと思える場合でも)があるということです。前者については、後見制度の目的であるはずの自己決定権の尊重や残存能力の活用という意味で裁判所の運用に問題があると思えるとともに、後者の場合、地域包括支援センターや保護課の職員等といった支援者たちが、本来成年後見制度(特に保佐や補助)につなげるべき人たちを日常生活自立支援事業だけにつなげることで良しと考えているのではないかとさえ思えてしまいます。
大切なことは、判断能力に問題のある人たちの生活をどう守るか、どのように して本人の意思を尊重していくかという視点を持つことです。

 


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