みると通信:アルコール依存症について知ろう【第1回】

【第1回】アルコールに「依存」するとは?

北九州成年後見センターで受任する方の中に、「2親等以内の親族による申立てが困難で、福祉の増進を図る必要がある」として北九州市長が申立人の場合があります。
その申立ての実情中で、「アルコール依存症の既往歴あり脳障害や脳委縮のため認知症発症。配偶者とは離婚しており、親族とも交流が無い。」という案件がみうけられます。
みると通信第9回 後見人申立事例3 参照

実際に、後見人就任後に、ご家族に連絡をしても、近しい親族でさえ関わりを拒否されることもあります。
アルコール依存症は、家族などの周囲を巻きこみながら進行していき、身体・精神のみならず家族・人間関係を徐々に破壊していくと言われています。
いったいどういう病気なのか、事例も含めた5回シリーズで理解を深めていきたいと思います。

第1回ではアルコールに「依存」することの意味について、考えてみたいと思います。
アルコール依存症は薬物(アルコール、鎮痛剤、向精神薬、シンナー、覚せい剤、大麻、ニコチンなど)依存症の一種で、誰にでもかかる可能性のある精神疾患です。
「依存」を「何かに頼らないと、なにもできない」、という意味にとらえて、「意思が弱くだらしない人がかかる病気」と考えているかたもいると思いますが、それは正しくはありません。

依存は、精神依存身体依存の2つに分けて考えると理解しやすくなります。
最初は精神依存が形成されます。
精神依存とは、渇望(いつもお酒が飲みたいという強い欲求)に抗しきれず、自制が効かなくなった脳の障害です。
精神依存が形成されると、自宅にアルコールがないと、みりんを飲んでしまったり、平気で飲酒運転してお酒を買いに行ったりするなど、行動に変化が見られるようになります。このような状態になると、例えば朝、「今夜はお酒を飲むのをやめよう」と思って決意し奥さんに言って仕事に行っても、昼過ぎになるとだんだんお酒が欲しくなり、我慢することができずに、結局仕事帰りにお酒を飲んで、酩酊して帰って、奥さんにあきれられてしまいます。
自分では自覚していないことも多いですが、「酒を飲むという行為を自分で適度にコントロールすることができなくなっている状態」は、精神依存が形成された状態だといえます。

次に問題になってくるのが身体依存です。
長年、大量のアルコールを飲み続けている人は、体内にアルコールがあることが普通の状態(飲んで酔っていなくても、分解されないアルコールがいつも身体に残っている状態)になってしまいます。
そのような人が、お酒が飲めない状況が続いた場合、血中のアルコール濃度が下がり離脱症状が現れます。
手が震えたり、寒気がしたり、脂汗がでたり、ひどい場合は幻覚がみえたり、意識障害をひきおこしたりします。
離脱症状はアルコールを摂取すると収まるので、ますますお酒をやめることができなくなります。
このような状態になった場合、その人は身体依存になっているといえます。

飲酒パターン(酒の量や種類ではない)分類

正常域

A型:機械飲酒
宴会や会合、お祝いの席など、普段は飲まないが特別の時にだけつき合いで飲む

B型:習慣性飲酒
晩酌や寝酒、仕事帰りなど、一日のうち決まった時間にほぼ毎日飲む

病的飲酒パターン

C型:少量分散飲酒
一人で日常行動の合間合間に少量を繰り返し飲むことが2日以上続く

D型:持続深酩酊飲酒
一人で飲んでは眠り、醒めては飲む状態が2日以上続く

医療法人栗山会 飯田病院:小宮山徳太郎氏
全国健康保険協会ホームページより転用

さらに詳しく説明すると、依存をおこす薬物を繰り返し摂取した結果、特殊な行動(強化された薬物探索・摂取行動)をとるようになった状態の事が依存症です。
強化された薬物摂取行動とは「繰り返しその薬物をとり続ける行動」です。
上記の図を参照にした場合、C型・D型の人の場合、アルコール依存症へ進行する可能性があります。
もちろん、A型やB型に該当する人でも、量や頻度が増えると、体を害する恐れがありますので、充分な注意が必要になります。

強化された薬物探索行動とは「繰り返し薬物をとり続けるために様々な工夫を行う」もので、これらの行動が著しく激しく認められる状態を示します。
アルコール依存症が進行していくと、周囲から飲酒を制限されるようになります。
そこで、酒代を工面するために子どもの貯金箱に手をだすとか、大切な結婚指輪を換金したりします。また、家族や職場の上司に見つからないように、酒を自宅のトイレや仕事場の机に隠して飲酒したり、帰りの電車内や自動販売機に隠れて飲酒したりします。

更にはアルコールを飲まそうとしない家族を、脅したり、暴力をふるったり、泣き落としをしたり、二度と飲まないと誓約書を何度も書いたりします。
依存症者がうそをついてしまったり、約束を破ってしまったりすることを繰り返すのは、まさに薬物探索行動の結果といえます。

当然、こういった行為は、決してほめられたことではなく、家族や職場からの信頼を失っていきます。本人も後悔はしますが、自分ではそういった行動をとめることは難しく(精神依存)、自己評価を低めてしまい苦しみ、またお酒を飲むという悪循環に陥ることもあります。